お誕生日の話

ゾロナミ

強きあなたに祝福を

 終わった宴の輪の端っこ、薄明かりに照らされる見慣れた緑を見つけてホッとする。寝息は正常。昼間の戦闘で受けた傷はそれほど深くなかったようだ。
 ごろりと横たわる大きな身体。そばにそっと腰を下ろして、整った寝顔を眺める。同じ人間だ、と実感する。
 日に日に強くなっていくこの人を、私はなにか別の種族の、たとえば獣の類の生き物のように感じてしまう時がある。普段の生活の中ではうまくその牙を隠していても、ひとたび敵を認識すれば本能的に爪を立て牙を剥く。その敵が例え自分よりも圧倒的に強者であっても、噛み付くことを躊躇わない。逃げるという選択肢を絶って前に進むことを考える。そうやって己を顧みずに船長を守り抜こうとするのがゾロだ。
 一つ冒険を終えるたび、目の前の敵を倒すたび、酷い傷を負うたびに、内も外も獣と化していく。そんな気がする。
 だから私は確かめる。戦いを終えてただの人になるこの時に、ちゃんとまだ人間でいるだろうかと、その姿形を、呼吸音を、匂いを、温度を。
 行儀良く眠っているその隣に横たわり、背中側からぴったりと身体をくっつけて、全身でゾロを感じる。
 背に当てた手のひらに伝わる少し高い体温と、呼吸と共に上下する背中の筋肉。おでこに当たる見た目よりも柔らかな髪がくすぐったい。鼻先に首筋のにおい。特別いい匂いではないけれど、あたたかみのある落ち着くにおい。人のにおいがする。
「お誕生日、おめでとう」
 次のおめでとうまで、どうかどうかその身を保って、健やかな心のままでいて。

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