琥珀の願い

ゾロナミ

 カラカラと氷を揺らしながら注がれる琥珀色をうっとりと眺める眼は、とろりと酔いを含んでいる。ゆるく上向きの弧を描いた口元はわずかに濡れていて、薄暗く落とした照明の光を惹きつけて輝く。こういう表情を色っぽい、と表すのだろうとゾロは思う。
 島に降りて二日目、宵の淵から始めた二人だけの宴はもうずいぶん深くなっている。これだけの時間変わらぬペースで酒を入れてもほろ酔いの域を出ないことを、安心して良いのか、悲しむべきなのか。二人きりで飲む度にほんの少し惜しい気持ちになるのは、互いに変わらぬ温度のせいだと分かってはいるが、だからといってわざと熱を上げるようなことを軽々とできるわけでもない。
 その変わらぬ温度を担保にして同じ時間を共有することが、二人の間に交わされた暗黙の了解だから。

「ゾロ、乾杯しよ」

 ん、と軽くグラスを上げる白い手につられて、ゾロも自分のグラスを手に取る。上機嫌だな、と口には出さずに小さな笑みで表した。どこまで伝わっているのか定かではないが、綻ばせた表情をより一層にっこりとさせてナミはゾロの手元にグラスを寄せた。

 なぁ。そんな顔を見せるのは俺で最後にしてくれよ。こんなに深い時間まで誰かと酒を飲むなんて、俺とだけで十分だろう? お前と同じペースで同じ酒飲めるのなんて、俺くらいなもんなんだから。明日も、明後日も、その次の日も。俺と二人で。

カチン、とガラスが合わさる音がして、ゆらりと氷が揺れた。「乾杯」と小さく唱えるナミの声に、こだまのように応えた。
言えもしない願望ならば浮かんでこなければいいのに。二人だけの宴の最後、この乾杯の時にはいつも叶わぬ願いが溢れそうになる。
誰のものにもならないからうちの航海士は最高なのに。
独り占めしたいだなんてどうかしている、と自嘲しながら含んだ酒はゾロの舌と頭を甘く痺れさせ、心地よく酔いをもたらした。

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