ゾロナミ

「ねーえ、あんたはプレゼントくれないの?」

 隣でカパカパと酒を空け続けたナミがわずかに頬を赤らめて、とろりと潤んだ瞳で俺を見る。全員で盛り上がったクリスマスの宴はとうにお開きとなっていたが、それでもまだ飲み足りない俺とナミは、往生際悪く二次会と称してアクアリウムで飲み続けていた。もう日付が変わる。クリスマスも間も無く終わる。

「あぁ? なんで俺が。サンタじゃねぇぞ」
「サンタより確実なのは仲間からのプレゼントよ。サンジくんもロビンも、ブルックもフランキーも、チョッパーも、ウソップだってくれたわよ?」
「そりゃお前、一芸のある奴らだからだろうが」

 呆れ顔で言ってみせる。なんの用意もしていないのは明らかなはずなのに、何を期待しているのやら。

「一芸って。あんただってなんかあるでしょ」
「なんだ、斬って欲しいもんでもあんのか?」
「そんなもんないわよ。そういうんじゃなくてなんかもうちょっと、あんただから出来ることってないわけ?」

 俺だから出来る? 斬る以外で?

「たとえば?」
「たとえば……そうね、たとえばあれ、とか」

 彷徨っていた視線が一周まわって俺に戻る。ニヤリと上がるナミの口角。悪巧みの顔だ。

「あれ? どれだよ」
 悪巧みに乗ってやるかは内容次第だ。自然こちらの口角も上がる。
「あれよ」
 思わせぶりにピンと立てた人差し指をくるくると回す。
「どれだよ」
 円を描いていたすらりとした指がぴたりと止まる。
「それそれ」
 その指の先は俺を指している。俺を指差してそれ、と言うその意味がまだ掴めない。徐々に近づく顔と顔。睨むように見つめ合う。
「それ? どれ」
 鼻先が、触れる。
「ほら、これ」

 これ、が溶け込んでいくように俺の唇にナミの唇が重なる。そうなるようにできていたのだと勘違いしてしまうほどに、ぴたりと合う二つの唇。 

 俺とナミは、キスをした。

 数秒、たった何秒かの触れ合いが持つ意味を、俺はまだ知らない。ただ確かなのは、そっと離れていく唇が名残惜しくてたまらないということだ。

「これ、他の人にはあげちゃ嫌よ」

 ひそめられた声は甘美な秘密を共有する、悪魔の囁き。美しい悪魔は俺の頬に軽く唇を寄せて、それをそのまま耳元へ滑らせる。

「内緒ね」

 その唇が俺のピアスを小さく揺らして離れていくと、腕から抜け出す猫の如くしなやかに席を立ち、「片付けよろしく」とあとの始末を押しつけて機嫌良く去っていく。
 扉が閉まる瞬間、こちらを向いたナミは口元に人差し指を添えて、『しーっ』と内緒を念押しする。その顔が意外にも照れた女のものだったから、次を期待せずにはいられなくなる。

 さて、この続きをもらうための悪巧みをはじめようか。

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