12月
いつもよりキラキラのアイシャドウ。アレンジした髪にコロンをひと吹き纏わせる。身体のラインを拾いすぎないニットのワンピースに、歩きやすい太めヒールのショートブーツ。着膨れしないコートを選んで、少しボリュームを出したマフラーで唇は隠して。
久しぶりになってしまった今日のデートのため、SNSやショッピング、日々のお手入れでコツコツ貯めてきた”かわいい”を一気に放出した感は否めないけれど、このくらいしないとあの男は私の努力に気付きもしない。素直に褒めたりはしないだろうけど、ちょっとビックリした顔くらいは期待したい。
待ち合わせに少し遅れてやってきたゾロは、私の姿を認めると片眉をぴくりと上げた。ビックリ、どころかやや不機嫌そうにすら見える表情で、「おう」と軽めの挨拶。片手を挙げて返事をした私にゆったりと近づくと、こちらをろくに見もせずに「行くか」とだけ発して、ポケットに突っ込んでいた左手を出して私の右手を捕まえて握った。
並んで歩き出す寒空の下、二人の間に言葉はない。繋いだままのごつごつした大きな手。少し高めの体温。私の好きなゾロの手から、いつもと違う緊張感。
「ねぇ」
「ん?」
「なんか、怒ってる?」
指を絡めてきゅっと軽く握ってみる。
「なーんもしゃべんないじゃない。今日、乗り気じゃなかった?」
私は楽しみにしてたのにな。
私の言葉に視線を向けた、ゾロの表情がなんだか神妙で、こっちまでかしこまった気持ちになる。
「そうじゃねえ」
きっぱりと否定した後、ふっ、と短く息を吐いて、観念したように話を続ける。
「いや、今日久しぶりだったし、会えるの結構……だいぶ楽しみにしてた。どこ行こうかとか、何食おうかとか、俺なりに調べたんだけどよ」
絡めた指が、ぎゅっと握り返される。
「ダメだ、今日はもう家行こう」
「……へっ?」
「他のヤツに見せんのもったいねえ」
「え、なに?」
「今日のはダメだ、破壊力がやべえ。なんかいい匂いするし、変なヤツ寄ってきて殴り倒しちまう未来しか見えねえ」
「はぁ?」
「見せたくねえんだよ。他のヤツなんかに見せたら減っちまうだろうが、俺のナミが」
(俺のナミ! 初めて言われた!!)
「もう今日は家にいよう、な? 俺の前だけにしてくれそういうのは」
「ねぇそれってさ、かわいいって思ってくれてるって、こと?」
「可愛い、……んー、見た目が良いとは思ってる」
「それってかわいいってことじゃないの?」
うーん、と眉間の皺を深くして考え込んだ後、思い立ったように私に向き直ると、口元を隠したマフラーを指先でそっと下げて。
人目も気にせず街のど真ん中、久しぶりに交わしたキスは、冬と、ゾロの匂いがした。
一気に火照った頬を隠すようにマフラーを引き上げて、ゾロの腕にしがみついて早足で歩き出す。
「わかったかよ。こうしたくなるってこと」
ボソボソと呟くその声がしっかりと照れていて、マフラーの下で頬が緩む。
ねぇ、それきっとかわいいってことだよ。でもねゾロ、私にとってはあんたの方がずっとずっとかわいい、大好きな人よ。
コメント