ごあいさつ話まとめ

ゾロナミ

11月

 薄い掛け物の内側で触れる足先。ひんやりと冷えた肌の感触に目が覚める。
「寝てる?」
 返事の代わりに薄く目を開ける。小さな灯りの中に浮かび上がる、不安げな表情。
 のろのろと腕を上げて呼び寄せると、そこにすっぽりとおさまる華奢な身体が、小さく震える。
「寒くなっちゃった」
 震えた理由は、きっと別にあるのだろう。長い夜は頭ばかりが冴えていく。思考が巡れば巡るほど、起こりもしない想像が現実味を帯びていく。長い夜の暗闇は、人の不安を煽るのがうまい。
 たかだか俺の腕の一本で、ナミを覆う不安や恐怖を拭えるかは分からない。けれどナミがそれを期待するのなら、せめてこの腕はナミだけのために差し出したい。
「大丈夫だ」
 ぎゅっと腕に閉じ込めて、柔らかな身体を抱き寄せた。鼻先をくすぐる髪の匂いが甘く揺れて、じんわりと、肌の温度が上がっていくのを感じた。俺の熱に引き上げられて、ナミの冷えた指先にも徐々に温度が戻ってくる。
「ねぇ」
「ん?」
「好き」
 胸に押し当てられた唇は、確かにそう言葉を紡いだ。めったに口にしないそんな言葉を、噛み締めるように呟くくらいには、まいっていたのだろうと思う。
 髪を一度、二度、ゆっくりと撫でて、『俺も』と口にする頃には、腕の中が寝息に変わる。
 やっと訪れた安息の時間。目が覚めるまで、どうか幸せな夢を見て欲しいと願いながら、わずかに濡れた目尻にそっとくちづけた。

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