ごあいさつ話まとめ

ゾロナミ

9月

 『残暑』なんて言葉が通用しないほど、冷めやらぬ熱を抱えた秋の入り口。まだまだ袖のある服を着るのは抵抗がある俺を横目に、爪の先から秋を取り入れ始めたナミの身支度を盗み見る。「お化粧も変えてるのよ」なんて言われても、その顔の微細な変化に気づけるわけもなく。ただ今日も俺の好みの姿のナミがそこにいるだけだ。
 夏中露出していた肌はそれでも透き通るように白くて、俺とは違う創られ方をした人間に違いないと思う。剥き出しの肩が羽織に隠れて、身支度も最終段階。髪をまとめ始めた頃合いを見計らって、寝転がったベッドから立ち上がり、ナミの背後にそっと寄り添う。
「なぁに?」
「なんでも」
 首筋に顔を埋めるとみかんのいい匂いがする。
「跡つけちゃダメよ、今日アップで行くんだからね」
「んー」
 ダメだと言われたら仕方ない。微かに触れる唇を小さく開いて、甘く噛みつくに留めておいた。一瞬浮かんで、消える跡。真夏を越えた甘い果実に歯を立てる特権を味わう、暑さ残る9月の朝。

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