ごあいさつ話まとめ 2024.1〜6

ゾロナミ

6月

 久しぶりの晴天。眩しい日差しにまぶたを下げて、手のひらを日よけ代わりに額にかざす。
 天気というのは不思議なもので、その変化一つで心にも身体にも影響が出たりする。曇天続きの航海は、何とは無しに不穏さがあって、クルーの威勢も半減する。今日はここ数日の分を取り戻すように、朝から活気付く船内。
 船長は狙撃手と船医を両腕に巻き付けてふざけた歌を歌いながら、昨日までの欲求不満を爆発させるように、楽しげに船内を走り回る。子守役の操舵手は、たびたび船から転げ落ちる能力者たちを呆れ顔で救助する。水を噴き出してはまた走り回る無限の体力に、目を丸くしながらも穏やかに見守っている。考古学者は花壇の手入れ。最新の発明品で手伝うのは船大工。咲かせれば手は足りるだろうに、敢えて手伝いの申し出を受け入れた、彼女の笑顔は満足気だ。芝生の上の特設野外キッチンから美味しそうな匂い。晴れた甲板で嗅ぎ取る香ばしい匂いは、無条件に気分を高揚させる。風に靡くブロンドの髪、のぞく表情は少年のよう。BGMを奏でる音楽家のギターも、軽妙に音を弾ませる。響く歌声は力強く天まで届く勢い。気持ちよさそうなビブラートが耳に心地よい。天気一つでこの浮かれ様。皆、単純だな、と思いつつ、太陽の偉大さを改めて感じたり。
 ふと目につくのは居眠り剣士。鉄の団子を振っているか、愛刀の手入れをするか、そうでなければ眠るか酒か。この男がきっと一番、天候に左右されない生き方をしていると思う。ぶれない、曲げない、流されない。そういうところが、本当に──
『見過ぎ』
 ふと開いたまぶたの間から、チラリとこちらに向いた視線。薄く開いた唇が、確かにそう呟いた。
「いいじゃない。減るもんじゃなし」
 いいじゃない。無防備に眠る横顔なんて、晴れの日の甲板じゃなくちゃ堂々と見られない。雨の日は大変なの。どこで何をしているのか、大体予想がついてしまうから、そこに現れるなんてわざわざ会いに行っているようなものでしょう?
 剣士にくるりと背を向けて、溢れ出しそうになる気持ちを胸の中に押し込める。余計な言葉を紡がぬように結んだ唇は自然と緩く弧を描き、鼻から抜ける歌声が風に溶けていく。晴天に浮かれる航海士の後ろ姿を、剣士は眩しそうに眺めていた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました