ごあいさつ話まとめ 2024.1〜6

ゾロナミ

4月

 無遠慮に開けた扉の向こう、部屋の主は眠っていた。
 仕事の途中だったのだろう、分厚い公開日誌は開かれたままで、すぐ側には作業用のメガネ。羽根ペンがきちんとスタンドに立ててあるところを見ると、意図的な休憩だったのだろう。
 陽が傾いて、窓に西陽が差し込んでいる。
 陽の色に透ける航海士の髪が、キラキラと眩しい。太陽のようなこの女に、よく似合う色だ。
 見惚れた瞬間、半端に開けた扉の外から強く風が吹き込んで、日誌のページが走り出し、扉は大きな音と共に閉まった。
 音と衝撃で一瞬まつ毛が震えたものの、覚醒には至らずに航海士は夢の中。
 めくれてしまったページを戻して書きかけの箇所に重石を置いて、放ってあったブランケットを剥き出しの肩に掛ける。指先が触れた滑らかな肌はわずかに冷えていた。
 用事を伝えるのは目を覚ましてからにしよう。淡く朱に染まる耳を見なかったことにして、そっと扉を閉める。束の間の夢を妨げぬよう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました