親愛なる光
最初から、決まっていたのだと思う。
この船を照らし導く者。時に天候すら操って、船長が望む方へと迷いなく進めていく。眩しいくらいに、力強く。
東の果ての小さな海で、一人で何もかもを背負い込んだ少女は、その頃から十分に強く、たくましかったに違いない。
けれど今、仲間に頼り頼られる関係を築いたナミは、出会った頃よりもしなやかに潔い強さを手に入れている。頑なに閉じ込めて耐える強さは健気だけれど、その繊細な心の内を傷付けてきたのだろうと思う。荒れた心が癒えたのかどうか、それは誰にもわからない。だがこの船を、船員たちを照らし出すあの笑顔が、今のナミの答えだと思う。
「ちょっとゾロー! 起きてるなら手伝いなさいよー!」
薄目で、それもナミの方からは左眼しか見えないはずなのに、狸寝入りは見破られていた。こういうところがあるからナミにはどうにも逆らえない。
「……へーへー」
仕方なく、という体でゆっくりと腰を上げ、できるだけゆったりとナミの方へ向かう。
午後の陽が傾きつつあるこの時間。空と海。風になびいた長い髪と、樹々に実る瑞々しい果実。世界の全てが、ナミの色になる。
「なに笑ってんのよ?」
自然上がった口角は、笑顔と捉えられたらしい。
「いや、………」
別に、と濁してしまえばいつもの会話で終えられる。それもいい。いつもの俺たちの空気のまま、心地よく。
「いい色だと思って」
一瞬、きょとんと俺を見て、「そう」とだけ返事をすると、あとは並んで黙々と樹々の手入れと果実の収穫。まるまると実ったみかんは、爽やかな甘さを放ってカゴの中へと収まっていく。
「ナミ、」
最後の一個をもぎ取って手渡すと、黄昏の海に浮かび上がる笑顔。
あぁ、やっぱり。
出会った時から、それよりもっとずっと前から、決まっていたのだと思う。この船を照らし、それぞれの夢へと導く者。美しくたくましい、この船の航海士。偉大なその存在に、惜しみない祝福を。
「誕生日おめでとう」
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